MADE in KOBEの水素燃料電池発電システムが、たつの市の工場で稼働するワケ

~「地球が育んでくれた環境を守る!神戸水素クラスターからの挑戦」 Vol.1~

事業用井戸水の汲み上げに「水素燃料電池システム」を使ってみたい!

 7月初旬、阪神機器株式会社のパワーリフト付トラックが、たつの市新宮町にある手延べそうめん製造機械メーカー 有限会社マルブンにやってきました。電気機器製造部の宮下さん、横山さんが慎重にトラックから降ろしてきたのは、「Hydro e-life(ハイドロ イーライフ)」。阪神機器が2017年から開発している純水素燃料電池発電システムです。

神戸からHydro e-lifeが到着
水ポンプ倉庫の隣に設置場所を用意
慎重に設置していきます

 有限会社マルブンでは、工場や事務所で使う事業用水はすべて井戸水が使われています。汲み上げるポンプの電源に水素燃料電池を使ってみようという、中村誠悟社長の発案で今回の導入が実現しました。

「水素燃料電池発電システムを製作している阪神機器さんのことを知ったのは中小機構の「J-goodtech(ジェグテック)」の担当者から教えてもらったのです。水素発電に取り組む大企業はありますが、中小企業がここまでの製品にしているのは素晴らしいなと思い、紹介してもらいました。創業当初より新しモノ好きな社風もあり、環境問題に関する新しい技術は誰かが導入しないと広がっていかないな、という思いもあり発電実証に協力することになりました」と中村社長。

有限会社マルブン 代表取締役 中村誠悟氏
設置状況を確認。

 同システムの構想から研究、開発・設計、製作を手掛けてきた、阪神機器 取締役 黄 勝義氏は「これまで展示会などで実証実験を行ってたくさんの方にうちの水素燃料電池発電システムを見てもらってきましたが、実際に事業所で継続して使ってもらうのは初めてです。おそらく課題は出てくると思いますが、それも学びとして中村社長のご協力のもと、改良・改善につなげていきたいです」

 開発に心血を注いできた開発部隊の宮下さん、横山さんが丁寧に設置し、用意されていた水素ボンベを取り付け、検知器で水素漏れなどを慎重に確認。圧力調整器まわりには、神戸水素クラスター勉強会会員企業である株式会社千代田精機の製品が使われており、共に製作に取り組んだ成果が表れています。

横山さんが水素ボンベと圧力調整器をつなぐ
千代田精機製 圧力調整機
赤い水素ボンベを置いている青い棚はマルブンの新入社員の方の技術研修を兼ねて製作された専用のもの。
宮下さんが機器の中を点検中
スイッチオン。約15分で発電開始
運転状況を確認できるモニター

自社の強みを最大限に生かして、水素産業参入に挑む!

 神戸市では、2015年に水素エネルギーに関する取り組みを行う有志が集まり「神戸水素クラスター勉強会」が発足。水素産業参入を目指す中小企業が相互や大学等との連携による研究や製品開発を目的に活動しています。阪神機器もその1社として2017年より水素燃料電池システムの研究に着手し、電気機器製造と金属加工の得意技術を活かして2022年に「Hydro e-life(ハイドロ イーライフ)」のプロトタイプ機が完成しました。

 黄氏は当時について「自社の強みを生かして何か新規事業ができないかと模索していた中で、エネルギー問題に着目し、県市もそれらの事業に取り組もうという流れもあり、「水素燃料電池」に行きついたという経緯です。しかし、自社で水素を扱ったことなどなく、海外から燃料電池を購入して構造や水素の安全な取り扱い方などを学び、ゼロからスタートしました。」と、開発の指揮をとった苦労を語ってくれました。開発部隊は電気機器製造部をはじめ社内の精鋭たちが集結し、様々なアイデアや意見を出し合い、業務と並行して熱心に取り組んできたといいます。また、開発にあたっては「神戸水素クラスター勉強会」の燃料電池の研究開発に取り組む分科会として、ガス制御機器メーカー千代田精機とタッグを組んで開発に取り組んできた経緯もあります。

  「世界的なエネルギー問題、日本の製造業の将来など、危機感を持って取り組まないといけない課題がたくさんあると日々感じています。中小企業の水素産業参入はまだこれからという状況ですが、神戸から機運を盛り上げていきたいという思いで、地域を巻き込んで取り組んでいきたいです」と黄氏は熱い想いでこの事業に取り組んでいます。

阪神機器 黄 勝義氏
設置作業を終えて。

取材を終えて

実は、取材当日は「発電無事成功!」とはなりませんでした…。

翌日、黄氏よりメールで、

「問題点を整理し、想定される対策を行い、翌日もマルブンで再度チャレンジを行いました。その結果、井戸水用ポンプを対象とした発電実証は叶わず、やむなく現地撤退の準備を行っていたところ、中村社長が社内設備で実証可能なものがないか今一度チェックしてくださり、昨日ドリンクを冷やしていた水を冷やすチラー(冷却水循環装置)が数百wの仕様であることが判明。

急遽同設備を対象に燃料電池発電システム実証対象とならないか、確認&トライを行い、その結果、無事発電実証ができることが確認されました!(添付写真が最終的な発電実証状況です)」との嬉しいご連絡がありました!

再チャレンジの結果、無事成功!
ただ今、水素燃料電池発電中!

 たつの市と神戸市、兵庫県下の製造業同士の「水素発電実証」のコラボ事業は、世界の水素社会実現の大きな第1歩になるかもしれません。

「地球が育んでくれた環境を守る!神戸水素クラスターからの挑戦」シリーズは、神戸市内で水素産業参入に挑む中小企業の活動をレポートしていきます。次回Vol.2にご期待ください!!

企業概要

阪神機器株式会社…1926年創業、1953年株式会社に改組し、電気機器製造、キャタピラー部品加工の事業を行う。

神戸市産業振興財団の「神戸発・優れた技術」認定企業

ホームページ:https://www.hanshinkiki.co.jp/

所在地:本社/神戸市西区伊川谷町潤和745番地(神戸鉄工団地内)

有限会社マルブン…1979年創業、手延べそうめん用機械、各種省力化機械設計・製作を行う。全国の手延べそうめん生産地で使用されており、「麺分け機」メーカーとして全国に顧客を持つ。SDGsに取り組み、「地域の活性化」「社会貢献」に7つの目標を掲げ、厚労省のユースエール、兵庫県のひょうご産業SDGs推進宣言事業の宣言を受けている。
ホームページ:http://www.marubun-menki.com/

所在地:たつの市新宮町曽我井645

この記事を書いた人:産業イノベーション推進部  ナカムラ

 撮影した人:総務企画部 さんしん妹