銭湯セミナーの質疑応答を丁寧にまとめました

 主催:神戸市浴場組合連合会、神戸市産業振興財団 

 8月29日に「神戸銭湯セミナー’23」を開催し、㈱ゆとなみ社の湊三次郎さんをお招きしました。

 兵庫区の湊河湯の存続が危ぶまれたところ、同社が継業され、8月11日に復活オープン。継業直後の多忙ななか、湊さんに銭湯に対する熱い思いを語っていただきました。

 ファシリテーターは上方講談師で銭湯愛好家の旭堂南歩さん。事前に参加者からいただいた質問を深堀りして、ズバリ切り込んでいただきました。

 当日は、定員50名を大幅に上回る64名の参加者で会場は熱気に包まれました!

 以下、当日の主なご質問と湊さんの回答です。

(ファシリテーター)

改装を伴わずに集客をどう増やしたらよいでしょうか?特に若者を増やしたいです。

(湊さん)

いろいろな銭湯に行って見て感じたのは、ほかの業種ではできている当たり前の努力ができていないということです。例えば、チラシを作ってポスティングをしたり、SNSで情報発信したりするなど。

集客を増やすために、まず目標設定をすることが大切で、そのためには現状把握が必要。20~30代の若いお客さんを増やしたいと思っても、どれくらい来ているか現状が分からないと対策ができません。大まかに1日の売上を把握するのではなく、1時間ごとに何人来ているかの集計を取った方が良いです。

また、自分の銭湯を知らない人が地域にはまだまだ多いという前提で、営業時間、料金、内装をチラシで伝えることは重要ですね。そういったアナログ的なことと並行して、SNSで情報発信もした方が良いです。両方やらなければいけませんが、どちらを取るかというと、チラシ配りやポスティングと言ったアナログの方を優先しています。SNSでは幅広く拡散されますが、銭湯近くの地域周辺の方には届かないからです。

(ファシリテーター) 

「銭湯の経営は、現場で経験を積まないと分からないことが沢山ある、軌道に乗るまで難しい、『コミュニティを作りたい』だけのモチベーションじゃ銭湯経営は無理です。」との湊さんの記事を拝見しました。

将来的に、銭湯を継業して銭湯つきカフェを神戸で経営したいと考えているのですが、「銭湯を日本から消さない」ために、若者が今からできることは何があるでしょうか。

(湊さん)

いろんな業種がある中で、銭湯をやりたい若い人がいることは業界にとってプラスだけど、その人たちを銭湯業界が取り込めていないのはもったいないですね。

銭湯をやりたい動機のうち、コミュニティを作りたいというのは多いのですが、その動機では続かないと思います。コミュニティはプラスのことばかりでなく、例えば、高齢で独居の方を福祉につないだこともあります。下着が汚れている状態でも帰れとは言えませんし。銭湯と聞いてイメージするふわっとしたコミュニティと違い、実際はドロドロして、しんどいこともありますよ。番台に座って、ニコニコして、「おおきに」だけでない。現場で働いてみて、そういう現実を知った方がいいと思いますね。

ただ、現在大学生だから銭湯でバイトする必要はなくて、今だからこそできることを、たとえば100軒の銭湯に行く方が良いです。繁盛店だけでなく、地方の銭湯も。100軒行くと見え方が変わりますよ。良いところ、悪いところの見え方が変わる。

私は大学時代の卒論のテーマが「静岡の銭湯について」だったんです。昭和46年は260軒あった静岡の銭湯が今は15軒しかなくて、しかも廃業した銭湯のことをまとめられている資料が当時ありませんでした。それで、自分が調べなければと思い、名簿をもとに廃業した銭湯を自転車で全部巡りました。当時の260軒のうち跡地に残っているのは3軒だけで、わからないところは周辺のおじいちゃんやおばあちゃんに聞きましたね。それで地域の変遷がわかり、衰退している土地の歴史そのものを知ることができました。

ご自身の出身地の銭湯を回って、調べてみると良いかもしれません。銭湯を探すことで営業能力がつくので、ぜひやってほしいですね。

(ファシリテーター)

きっとその人はこの話を聞いて目が輝いているかもしれませんね。

(ファシリテーター)

 両親が関西で銭湯を営んでおります。私自身は会社員で、後を継ぐような話はしておりませんが、一方、その地区の銭湯は我が家のみとなっており、後を継ぐことへの意義も感じております。

ただし、問題になるのは設備の老朽化で、建物そのものの維持に関してどのように考えられますか。

 継業する際に、限られた予算で優先して投資していること、絶対にこれだけはすると決めていることはありますか?

(湊さん)

投資の優先順位は「ロビー改装」で、番台式からの改装が第1優先ですね。番台はコクピットみたいで、ぱっと動けないし長話もしにくいですが、ロビー式の方がお客さまとコミュニケーションをとりやすい。

 2番目は「人選」です。店のスタッフ次第でお客さんが増えます。湊河湯継業の話があっても、兵庫に思いがある人がいないとゆとなみ社として継業は難しかったと思っています。そこに住まないといけないし、ローカルに溶け込むのはなかなか難しい。店長の松田さんの存在があったので継業できると判断しました。

 ゆとなみ社は、お客様が入ってきたときに絶対に「こんばんわ」と挨拶をしています。何かしら会話をすることは重要です。ゴリゴリの接客はやっている方も疲れるのでする必要はなくて、感じのいい店員さんがいるということで十分です。

(ファシリテーター)

 再建する銭湯の見つけ方は?同時に3つ継業された理由はありますか?

 湊河湯を選ばれた理由は何でしょうか。将来的に、神戸市の別の銭湯を継業する可能性はありますか?

(湊さん)

地域のことを調べたうえで、採算があうかどうかをシビアに考えます。大きな利益は出なくてもいいが、トントンくらいになる必要はある。周辺地域はどんな街か、スタッフが住めるかどうか、その地域にその銭湯が残った場合、20、30年後どういう影響があるかを想像してみます。地域にとってプラスになるのかなというのも重要です。

 3つの継業が重なっちゃったのは、今まで同時に2軒ずつ継業しましたが、同時にやるチャンスもないし、3軒をやってみよう、おもしろそうだしと考えたので踏み切りました。

 神戸市でさらに銭湯継業の話があればぜひやってみたいです。関西のいろんな自治体の人と話す機会が多いけど、営業許可や助成金など、神戸市が一番手厚いですね。役所の人がめちゃくちゃ協力的です。神戸市はやるベースで、こうしたらいいんじゃないかと考えてくれました。神戸市自体が銭湯を応援してくれているし、行政の方が現場で戦っている日々の姿があるからだと思います。 

湊河湯 松田さんに急遽登壇いただきました!

 (松田さん)

湊さんと一緒に湊河湯を継業するとなった時に、怖さは一つもありませんでした。ゆとなみ社は本当に怖いもの知らずのスタッフばかりなので。

私はもし銭湯をやるなら湊河湯と決めていました。

 東山商店街にあることが、湊河湯の良さです。私は12年前の大学生の時、東山商店街の存在を知り、その時に初めて湊河湯を知りました。6月の昼下がりで、露天風呂に射す光を一生忘れられないです。忙しい社会人生活を送っていく中であの光を思い出していました。その時にゆとなみ社が募集していたので、すぐに面接に行ったんです。

(湊さん)

松田さんの第一印象は、経歴がすごいということ。百貨店の企画や、イベント会社や、有名なアイドルのマネージャーをやったりと。兵庫の銭湯をやりたいとの思いが強く、すごい人が来たなと思い、即決で採用しました。

(松田さん)

去年6月ゆとなみ社に入社して京都の梅湯で働いたり、大阪のみやの湯の上に住み込みながら働きました。銭湯の設備は知らなかったけど、掃除やいろんなことをやりながら覚えていきました。

湊河湯を継ぐことが決まり、大変だったのは、先代しか設備の細かい調整がわからない、ご子息もわからないこと。バルブを何周回すと漏れないといった機械の癖をつかむことが難しかったです。図面もないし。釜(タンク)から水が漏れだしたこともあり大変だった。

(ファシリテーター)

大変じゃないですか。やりたい熱がはじめ100あったのが下がりましたか?

(松田さん)

逆に130に上がりました!銭湯を残さないといけない、地域の人と毎日絡んでいくことが大切だと思いました。

(事務局の感想)

主なものだけでも、これだけのボリュームになりました。具体的なエピソードが盛りだくさんで、湊さんと南歩さんの掛け合いが絶妙で、あっという間の1時間50分でした。

セミナー終了後も、湊さんへ質問をする参加者の列が途切れることがありませんでした。古き良きものを残し、また新しい価値観ややり方を取り入れる。若い世代の20~30代に銭湯文化が受け入れられるために、何を残すか?何をすべきか?を考えさせられるセミナーでした。(K.A.)                                     

以上