運送業の2024年問題を乗り越えろ!事業承継支援事例
~親族承継編~(前編)

三喜産業株式会社(神戸市東灘区)

事業者名:三喜産業株式会社 
代表取締役 井本 雄介 氏
取締役会長 井本 善郎 氏
営業部部長 井本 英伸 氏

開業年月日:1972年6月23日
所在地:神戸市東灘区住吉宮町3丁目15-12

ホームページ: 三喜産業株式会社 (sanki-kobe.com)

事業内容 :
食品配送業務・医薬品配送業務・構内作業(食品ピッキング)・送迎バス業務・人材派遣業務  

井本雄介社長(左)と井本善郎会長(右)

「この世の問題は、この世で解決!」
先代から語り継がれるこの言葉は、プレッシャーに直面するたびに心に浮かぶという井本社長。
三喜産業を訪問し、4 代目の井本善郎会長(右)、5 代目井本雄介社長(左)からお話を伺いました。

案件の概略

三喜産業と産振財団との関わりは 2019 年に遡ります。
2019 年 11 月財団職員が企業訪問。当時34 歳の井本取締役(現社長)から社内の課題やあとつぎとしての考えをヒアリングし、親族ならではの課題があることに気づき、産振財団のあとつぎサポートチームと協議しました。

社内の調整は難航を極めましたが、2020 年 9 月に中小企業診断士を派遣。社長と取締役に面談して各々の思いを確認する中で、会社経営の方法の違いはあるが同じ方向を向いていることが確認できました。
2020 年 12 月の派遣2回目では、両者の認識のずれは以前よりも減少。

親子だけでは感情的になり話が進まないことが多いですが、産振財団の支援という第三者が入ることでお互い冷静になり、客観的になれるという効果が表れました。

井本社長が、井本会長から事業を引き継いだのは 2022 年 6 月。産振財団が初めてお会いしてから、2年 7 ヶ月が経過していました。事業承継は、親族間承継であっても時間がかかることが伺えます。

事業承継の概要  

4代目の井本会長が製薬会社や病院の事務長を務め上げ、三喜産業を受け継いだのは 66 歳の時。
それから 11 年、運送業の現場未経験ながらも必死に今までの感覚を信じて経営を存続してきましたが、年齢を重ねると共に気力の衰えを感じ、新しいことへのチャレンジの難しさを実感し始めていました。

世の中が大きく変化する時代に対応していくことに限界を感じる中、堅実で守りに入る慎重さを良しとした昔の考え方では、もはや競合相手と戦う気持ちを奮い立たせることはできないと、井本会長は事業承継を決意。

38 歳の若さで三喜産業の看板を背負うことを井本社長が決断した理由は、
「先代の会社を残したい、従業員を守りたい」といった思いから。

この会社を存続するために、
“更なる飛躍と新しいことにチャレンジする経営のトップになる”という意思を固めました。

6年間の現場経験を経たことにより社内の現状を熟知した上で、今は新しい取り組みの構築に全力集中する日々。

目の前に立ちはだかる、とてつもなく大きな壁

会社を承継してまもなく、突然に宣告された大口取引先企業の事業撤退。
撤退が2年後に差し迫る中、舵を取り幹部と相談しながら実務メンバーと新事業の構築が急務となっています。

外部専門家や世間一般的には、リストラや社員の縮小を迫られそうな厳しい状況ではありますが、
「社員を守ることをベストに考える、それが自身の責任である」と 30 代でのしかかるプレッシャーの中でも現在175 名の従業員を抱える責務を貫き、新しい取引先の開拓に奮闘します。

売上の7~8 割を占めていた大口の取引先を失うことに会長も不安を隠せない様子ですが、井本社長は「トライしてから答えを出したい」と思いを語ります。

「トラック台数も現状のままを保持し、一人一人の社員の雇用を守る」

乗務員不足も覆いかぶさる中、惜しげなく足を運んでつないだ製薬会社との新規取引商談を成功させました。「社長は、会社の看板とパイオニア精神で、製薬業界の重い扉を開いた」と井本会長。

親族間での承継の難しさ

親族間承継は、決して平たんな道のりではありません。

「親子で血のつながりがあるので会社を譲ることにおいては安心だろうと考えがちですが、会社を未来に向けて存続するというゴールは同じであっても、考え方は必ず同じとは限らない」

「新しい開拓に挑むことを会長に理解して欲しいもどかしさを、日々感じている」

と井本社長は語ります。

事業承継の担当者は、
「シーズン毎に、必ず事務所に顔を出して現状報告と相談に来られるんですよ。社長は自他ともに認める頑固だというけれど、マメさと真面目さ、そして時折見せる屈託のない笑顔を見ていると、『是非頑張って欲しい!』と応援したくなるんです。」と目を細めます。

働き方や価値観が変わったとしても、売上拡大と会社を存続することは経営者の務めです。いい形で生まれ変わるチャンスだと捉え、突き進んで欲しいと願っています。

今後、会社をどのように経営していくのかについては(後編 )でお伝えします。